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機械の包括的な安全基準に関する指針

【機械包括安全指針】機械の製造等を行う者の実施事項について

 2007年7月31日に厚生労働省より改正発令された【機械の包括的な安全基準に関する指針 (基発第0731001号)】は、2006年に改正された労働安全衛生法第3条2項「機械その他の設備を設計し、製造し、若しくは輸入する者は、機械が使用されることによる労働災害の発生の防止に資するよう努めなければならない」にしたがい、リスクアセスメント(危険性および有害性等の調査)をコアツールとして、機械の製造者および労働者に機械を使用させる事業者それぞれに、機械類の安全化を努力義務として要求している指針です。

 【機械の包括的な安全基準に関する指針】のベースである国際規格が、「ISO 12100 機械類の安全性-設計原則-リスクアセスメント及びリスク低減」ですが、国際規格は機械の製造者に対してのみに要求していることから、機械安全は指針の第二だけが対象となります。そこに記述されている要求が設計者として取り組むべき事項であり、その内容を理解して実践することが、機械メーカーとして果たすべき社会的責任であることは言うまでもありません。

 

機械の包括的な安全基準に関する指針第2版(基発第0731001号)

第2 機械の製造等を行う者の実施事項[労働安全衛生法第3条2項]

1. 製造等を行う機械の調査等の実施

 機械の製造等を行う者は、製造等を行う機械に係る危険性又は有害性等の調査(以下単に「調査」)及びその結果に基づく措置として、次に掲げる事項を実施するものとする。

(1) 機械の制限(使用上、空間上及び時間上の限度・範囲をいう。)に関する仕様の指定

(2) 機械に労働者が関わる作業等における危険性又は有害性の同定(機械による危険性又は有害性として例示されている事項の中から同じものを見い出して定めることをいう。)

(3) (2)により同定された危険性又は有害性ごとのリスクの見積り及び適切なリスクの低減が達成されているかどうかの検討

(4) 保護方策の検討及び実施によるリスクの低減

(1)から(4)までの実施に当たっては、同定されたすべての危険性又は有害性に対して、別図に示すように反復的に実施するものとする。

2. 実施時期

 機械の製造等を行う者は、次の時期に調査等を行うものとする。

ア. 機械の設計、製造、改造等を行うとき
イ. 機械を輸入し譲渡又は貸与を行うとき
ウ. 製造等を行った機械による労働災害が発生したとき
エ. 新たな安全衛生に係る知見の集積等があったとき

3. 機械の制限に関する仕様の指定

 機械の製造等を行う者は、次に掲げる機械の制限に関する仕様の指定を行うものとする。

ア. 機械の意図する使用、合理的に予見可能な誤使用、労働者の経験、能力等の使用上の制限
イ. 機械の動作、設置、保守点検等に必要とする範囲等の空間上の制限
ウ. 機械、その構成品及び部品の寿命等の時間上の制限

4. 危険性又は有害性の同定

 機械の製造等を行う者は、次に掲げる機械に労働者が関わる作業等における危険性又は有害性を、別表第1に例示されている事項を参照する等して同定するものとする。

ア. 機械の製造の作業(機械の輸入を行う場合を除く。)
イ. 機械の意図する使用が行われる作業
ウ. 運搬、設置、試運転等の機械の使用の開始に関する作業
エ. 解体、廃棄等の機械の使用の停止に関する作業
オ. 機械に故障、異常等が発生している状況における作業
カ. 機械の合理的に予見可能な誤使用が行われる作業
キ. 機械を使用する労働者以外の者(合理的に予見可能な者に限る。)が機械の危険性又は有害性に接近すること

5. リスクの見積り等

(1) 機械の製造等を行う者は、4で同定されたそれぞれの危険性又は有害性ごとに、発生するおそれのある負傷又は疾病の重篤度及びそれらの発生の可能性の度合いをそれぞれ考慮して、リスクを見積もり、適切なリスクの低減が達成されているかどうか検討するものとする。

(2) リスクの見積りに当たっては、それぞれの危険性又は有害性により最も発生するおそれのある負傷又は疾病の重篤度によってリスクを見積もるものとするが、発生の可能性が低くても予見される最も重篤な負傷又は疾病も配慮するよう留意すること。

6. 保護方策の検討及び実施

(1) 機械の製造等を行う者は、3から5までの結果に基づき、法令に定められた事項がある場合はそれを必ず実施するとともに、適切なリスクの低減が達成されていないと判断した危険性又は有害性について、次に掲げる優先順位により、機械に係る保護方策を検討し実施するものとする。

ア. 別表第2に定める方法その他適切な方法により本質的安全設計方策を行うこと。
イ. 別表第3に定める方法その他適切な方法による安全防護及び別表第4に定める方法その他適切な方法による付加保護方策を行うこと。
ウ. 別表第5に定める方法その他適切な方法により、機械を譲渡又は貸与される者に対し、使用上の情報を提供すること

(2) (1)の検討に当たっては、本質的安全設計方策、安全防護又は付加保護方策を適切に適用すべきところを使用上の情報で代替してはならないものとする。また、保護方策を行うときは、新たな危険性又は有害性の発生及びリスクの増加が生じないよう留意し、保護方策を行った結果これらが生じたときは、当該リスクの低減を行うものとする。

7. 記録

 機械の製造等を行う者は、実施した機械に係る調査等の結果について次の事項を記録し、保管するものとする。仕様や構成品の変更等によって実際の機械の条件又は状況と記録の内容との間に相異が生じた場合は、速やかに記録を更新すること。

ア. 同定した危険性又は有害性
イ. 見積もったリスク
ウ. 実施した保護方策及び残留リスク

 

2024年7月4日
SPUS 有用安全工房
リーダー 保科修一

2024年07月04日

ISO 12100 機械類の安全性

 「ISO 12100:2010 機械類の安全性-設計の一般原則-リスクアセスメントとリスク低減」は、機械安全を行うための基本規格です。
 この規格は普遍的ながら定性的な要求であるため、より具体的で定量的な要求は、この規格の下位に位置する多くのISO・IECの規格に記述されています。ゆえに、設計においてこの規格を用いる場面は少なく、この規格で記述されている機械安全についての考え方や進め方は、必ずしも理解されているとはいえません。このようなことから、ISO 12100 : 2010の各項の目的を以下のように再考してみます。

1.機械類の安全性
 機械類の設計において安全性を達成する

2.方法論
 3ステップメソッドに基づき、設計段階で方策を組み込む

3.リスクアセスメント
 機械類に存在する危険源から生じるリスクを見積もる

(1) リスクアセスメントの情報
定量・定性に関わらず、関係するあらゆる情報を収集する

(2) 機械類の制限の決定
機械類の寿命までの全段階を考慮した制限の仕様を決定する

(3) 危険源の同定
全局面での危険源・危険状態・危険事象を系統的に同定する

(4) リスク見積り
状況を勘案し、危害のひどさと発生確率からリスクを見積もる

(5) リスク評価
他事例や見積もったリスクから、保護方策の必要性を判定する

4.リスク低減
 危険源の除去、または、危害のひどさと発生確率を低減する

(1) 本質的安全設計方策
設計特性の選択により、有効性のある方策でリスクを低減する

(2) 安全防護
本質的安全設計方策後に残った危険源やリスクから人を保護する

(3) 付加保護方策
意図する使用や合理的に予見可能な誤使用において人が使用する

(4) 使用上の情報
意図する使用に対する正しい情報を、使用者へ確実に提供する

5.文書化
 提示は不要だが、実施した手順と達成した結果を文書化する

 JIS B9700:2013 機械類の安全性-設計のための一般原則-リスクアセスメント及びリスク低減、ISO 12100:2010 を基に技術的内容及び構成を変更することなく作成された日本産業規格です。

 

2024年6月18日
SPUS 有用安全工房
リーダー 保科修一

2024年06月18日

なぜ今、有用安全なのか?

 2001年に厚生労働省より発令された「機械の包括的な安全基準に関する指針」は、2006年の労働安全衛生法の改正に合わせて、2007年に第2版へ改正されています。同指針は「ISO 12100 機械類の安全性-設計の一般原則-リスクアセスメント及びリスク低減」に基づいており、機械装置に対するリスクアセスメントが始まってから17年が経過しました。

 同指針は械メーカーや機械ユーザーが所属する多くの産業団体に向けて発令され、各産業団体に加盟する大手企業では、機械安全を日常業務や安全活動として取り組んできました。その流れに合わせて安全コンポーネントの商品化が進み、高性能・多機能で安価なものが入手できるようになり、機械装置の安全化は着実に進んでいます。

 しかし、主たる保護方策はガード・インタロックなどの安全防護であるため、対象とする機械装置は無人・自動で稼動できるものに留まっており、有人・手動で稼動する機械装置の安全化は思ったように進んでいません。同指針が産業団体に所属する比較的規模の大きな企業に向けて発令されたこともあり、安全防護が適用しにくい機械装置の多くを製造している中小企業メーカーでは、安全化の取り組みは未だに低調です。

 安全防護を適用できない有人・手動で稼動する機械装置では、人間工学を考慮した本質的安全設計方策と補完的保護方策が必要で、そのような保護方策が中小企業メーカーへの機械安全の普及に繋がります。この課題に取り組むため、新たに設立する団体が私たちSPUS 有用安全工房で、機械安全を適用する機械装置の対象範囲を拡大し、中小企業メーカーの競争力向上を支援していきます。

 

2024年6月1日
SPUS 有用安全工房
リーダー 保科修一

2024年06月01日